大判例

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名古屋高等裁判所 昭和29年(う)1026号 判決

労働組合法第一条第二項は労働組合の団体交渉其の他の行為に付いて無条件に刑法第三十五条の適用があることを規定したものではなく労働組合法制定の目的達成の為即ち団結権の保障及団体交渉権の保護助成に依つて労働者の地位の向上を図り経済の興隆に寄与させる為に為した正当な行為についてのみ右規定の適用を認めて居るに過ぎないのである。従つて労働者の団体交渉に於ても社会通念上許容される限度を超え刑法所定の名誉毀損罪が成立する場合にも常に同法第三十五条が適用せられて斯る行為が正当化せられるものと解釈することは出来ない。

本件に於て之を観るに原審が原判示第一に於て確定した事実の要旨は被告人中村幸彦は相被告人加藤秀郎及三輪秀清と共に名古屋市笹島自由労働組合の幹部であつた処名古屋中公共職業安定所笹島労働出張所と小林町作業現場との連絡係を担当して居た一見八郎を排斥する為右両名と共謀の上昭和二十五年七月五日右笹島労働出張所附近に於て就労を待つ多数の労務者に対し予て相被告人加藤が被告人中村等と共謀の上「ウラギリ者の正体は」と題し「一見と云ふ男はミズホ公園で現場からセメントを盗み出してクビになり矢田川では現場で時間中ドブをのんでヘドを吐いてくびになり植田川では恩のある高木連絡員をふみたおそうと策謀した男である、自分が直行になるためにだけサルヂエをしぼつて窓口のものをくいものにする男だ」等と記載して作成したビラ多数を配布し、三輪秀清に於て附近の板塀に貼付して掲示し以て公然事実を摘示して一見八郎の名誉を毀損したと謂ふにあつて之を前説示するところに照すと被告人中村の右所為が労働組合法第一条第二項の労働組合の団体交渉権に基く労働者の地位の向上を図る為の正当な行為に該当するものとは認め難い。従つて本件に於ける名誉毀損行為について刑法第三十五条を適用しなかつた原判決は正当であつてこの論旨は理由がない。

(裁判長判事 小林登一 判事 栗田源蔵 判事 石田恵一)

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